構造物の大型化に伴う様々な注意点の出現
1.1 テントの歴史と現状
1.1.7 構造物の大型化に伴う様々な注意点の出現
(1)構造物としての注意点
まず、サスペンション膜構造では、かつての吊り屋根で発生した降雨時の「ポンディング(屋根面の水たまり)」が発生する。次いで、かつての吊り橋や吊屋根の倒壊の原因となった強風の「フラタリング(バタツキ)」が発生する。
また、空気膜構造では、かつての軟式飛行船の墜落原因であった膜面の「引裂伝搬」が発生する。コンクリート基礎など固い部分と接するところで、膜面を横方向に引っ張ると破断することがある。
これらの現象に対応するため、サスペンション膜構造では膜面形態にHP(ハイパボリック・パラボロイド)曲面を採用し、初期張力を導入して、常に膜面を張りつめた状態に保つ工夫がとられた。また、空気膜構造では風圧に対応する内圧の値を定め、変動する風圧のもとでも常に膜面を張りつめた状態を保つ工夫がとられた。
これに伴って送風機や自動制御装置の知識が必要となった。
構造解析の面では、従来の静的解析に加えて動的解析も行われるようになり、また従来の線形解析から非線形解析へと変えていった。しかし、結露や音響など内部環境の面ではいくつかの問題を残した。
さらに、色・形・文字・意匠などが中心となる小型テントと同様に、材料選択や接合方法の面では共通するところが多いが、大スパンを狙う大型のテントでは、構造の面でまた異なる工学的知識や技術の蓄積が必要であると痛感させられる時代が長く続いた。
(2)材料としての注意点
膜面を「ポンディング」や「フラタリング」から守るために、初期張力を導入して常に膜面を張りつめた状態に保つ工夫がとられるが、この初期張力が大きすぎると膜面は伸び続けやがて「クリープ破断」することもあり得る。また、膜面に極度に大きな張力がかかったり弛緩したりの繰り返しがあると、航空機部材によくみられるような「繰り返し疲労」で破断することも考えられる。
膜材料は、大変形を許す材料であり、また金属などと異なりたて方向とよこ方向では異なる「応力 伸び特性」を示すので、これが取り付け時の膜面のタルミやヒキツレを起こさせる誘因になる(*1)。また、引張って取り付けた後での膜面寸法の経時変化の予測を難しくしている。初期応力を導入するには、膜材料の2軸「応力伸び特性」の把握が必要である。
大型化の初期では、繊維に発生するカビも大きな問題となり、一現場のテントを全部新品に取り替えたこともあった。膜材料の切断面やミシン縫穴からの水が誘因である。
テントの寿命は、膜材料や支持材料の経時劣化で決まるが、紫外線量や空気中の煤埃の量など立地条件など外部環境によって大きく異なる。
また、膜面に付着する汚れはテントの商品価値を下げ、顧客のテント離れを促すことになる。汚れは初期から問題となっていたが、現在は新技術によって改善の見通しがたった所である。
(3)接合部としての注意点
初期張力が大き過ぎると膜面の接合部も伸び続けやがて「クリープ破断」することもあり得る。しかし初期張力が大き過ぎなくとも、膜面の温度が摂氏50度を超えるかもしれない例えば真夏の炎天下では、膜面の溶着接合部が伸び続け、やがて「高温クリープ破断」することもあり得る。
ミシン接合部では縫糸が太陽の紫外線を浴びて経時劣化し破断することに注意しなければならない。
引用元(http://www.tent.or.jp/memberhtml/techbook/tento-01-01-01-07.htm)